サブタイトルは、江戸時代の大名にして、剣豪、そして名エッセイストでもある松浦静山(本名:松浦清)が、「常静子剣談」の中で述べた言葉です。
M&Aが失敗あるいは交渉が破断に至るのは、そこに明確な失敗事由~静山によれば「道(≒法則)に背き、術(≒技術)を違える」があるからです。 換言すれば、失敗の要因をしっかり押さえて(留意して)適切に対応する、あるいは除去すれば、失敗する懸念は相対的に少なくなると言うことになります。
特に、スモールM&Aは、詰める部分が相対的に少ないので、的を絞ってアプローチすることが出来るでしょう。
今回は、そんな失敗が生んだ「幻のM&A」の第2弾です。
「幻のM&A」事例➁~サガイコウイとヒニンケン …それ何?
事例 2
売案件:幼児向英語塾経営 事業譲渡
譲渡希望価格 50万円
売上 数千万円 営業利益・EBITDA 赤字
借入 億円単位~ 但し、引き継がず
自己資本 数千万円の債務超過
【 M&Aの理由・事情・動機 】
「選択と集中」により、この際、別事業に特化したいので、本部門は売却したいとの申し出。
【 主な条件 】
設備(建物は賃貸)・教材・人材(講師)・生徒は承継。
本件不成約事由
直接の要因: 法的に厄介な事態に陥る可能性があるとして、買い希望者が買収を断念。
しかし、これでは理由として漠然とし過ぎてますよね…
背景からお話ししますと、売却動機乃至きっかけは「破産申立て」を前提としていることが交渉過程で判明し、買い手は本M&Aの成立自体が否定される懸念があるとして交渉を打ち切ったのです。
一体、どうしたと言うのでしょう?
具体的経緯
買い希望者は、新しいビジネスの種を探して大手M&Aマッチングサイトで案件検索中に、売案件として掲載された本件に着目。
早速、交渉を開始すると、本案件は都心近郊の比較的高所得サラリーマンが多く居住する地域にあり、人口も増加傾向地域で幼児向け英語塾のマーケットとしては有望と思われました。
売り手の代取によれば、近時は集客活動は行っていない為、生徒数が減り、赤字に転落したが、かつては生徒数も多く、黒字だったと説明、それを示すデータも一部提供されました。
ここまで来て、買い希望者は、ふと「何故、集客活動を止めていたのか」と素朴な疑問を抱き、代取を問い詰めました。
なかなか口を割らなかった代取(売り手)ですが、ついに、実は本件は「カーブアウト案件」であること、企業本体は近々破産申し立て予定であることなどが分ったのです。「カーブアウト」とは企業が事業の一部を切り出しすることです。
代取の説明によれば、英語塾として、そこそこ順調に営業してきたが、少子化傾向もあり、将来の不安から多角化を決意した由。待機児童問題に着目し、保育園の経営に乗り出しました。補助金の申請も採択され、銀行からの融資もおり、滑り出しは順調でした。しかし、詳細は不明ですが、直ぐに経営難に陥り、その立て直しや金策に忙殺され、社長は英語塾経営まで手が回らなかったと言うのが真相だったようです。
だとすれば、広宣活動を元どおりに増やすことによって生徒数も以前の水準に回復する可能性が高く、黒字化も達成出来るに違いない…
「これは買いだ!」と買い希望者は思ったのですが、次の瞬間、代取の口からは衝撃的な発言が飛び出しました。
「当社は金繰りのメドが絶たたないので、1か月後に破産申立てを予定している。その前にせめて英語塾だけは切り離し、意欲のある経営者に譲りたかった」と。
…聞いていないことにしよう、
と、買い希望者も思わず、そう考えたのですが、本件は破産事件として裁判所の管轄下におかれることが見えています。万一、バレた場合はより厄介なことになる可能性もあります。
たとえ、破産に至らなくても、そもそも倒産必至先から安価購入すれば、民放上の規定で他の債権者から「詐害行為取消権」を行使されることがあります。
「詐害行為」とは債務者が債権者を害することを知りながら自己の財産を減少させる行為のことで、今回の事例で言えば、売主が債務者、売主にカネを貸した銀行他が債権者、買い希望者=購入者が受益者となります。
今回の場合は、破産事件となる見込みですので、破産管財人から「否認権」を行使されることが十分考えられます。「否認権」は、民法の「詐害行為取消権」と同様の趣旨の破産法上の制度です。
これについては後で詳述します。
いずれにせよ、本件の場合、売主と合意して購入したものでも、後日、その行為自体が否認され、元に戻される≒なかったことになる懸念があるのです。
つまり、買主は安心して塾の経営に邁進することなど出来なくなります。
しかも、譲渡価格の交渉の場で、代取は更に驚くべき発言をします。
「本当はいくらでも良いのよ。どうせ、売却代金は破産財団に組み入れられてしまうのだから。
ところで、ねえ、代金の一部を別口座に振り込むことって出来る?」
その言葉で、買い希望者は売主を「信頼できない人物」と判断し、本件交渉を打切ることとしました。
後日譚:
結局、売り手は破産申立てし、本事業が承継する者もなく、廃業となりました。
売案件:幼児向英語塾経営 事業譲渡
譲渡希望価格 50万円
売上 数千万円 営業利益・EBITDA 赤字
借入 億円単位~ 但し、引き継がず
自己資本 数千万円の債務超過
【 M&Aの理由・事情・動機 】
「選択と集中」により、この際、別事業に特化したいので、本部門は売却したいとの申し出。
【 主な条件 】
設備(建物は賃貸)・教材・人材(講師)・生徒は承継。
本件不成約事由
直接の要因: 法的に厄介な事態に陥る可能性があるとして、買い希望者が買収を断念。
しかし、これでは理由として漠然とし過ぎてますよね…
背景からお話ししますと、売却動機乃至きっかけは「破産申立て」を前提としていることが交渉過程で判明し、買い手は本M&Aの成立自体が否定される懸念があるとして交渉を打ち切ったのです。
一体、どうしたと言うのでしょう?
具体的経緯
買い希望者は、新しいビジネスの種を探して大手M&Aマッチングサイトで案件検索中に、売案件として掲載された本件に着目。
早速、交渉を開始すると、本案件は都心近郊の比較的高所得サラリーマンが多く居住する地域にあり、人口も増加傾向地域で幼児向け英語塾のマーケットとしては有望と思われました。
売り手の代取によれば、近時は集客活動は行っていない為、生徒数が減り、赤字に転落したが、かつては生徒数も多く、黒字だったと説明、それを示すデータも一部提供されました。
ここまで来て、買い希望者は、ふと「何故、集客活動を止めていたのか」と素朴な疑問を抱き、代取を問い詰めました。
なかなか口を割らなかった代取(売り手)ですが、ついに、実は本件は「カーブアウト案件」であること、企業本体は近々破産申し立て予定であることなどが分ったのです。「カーブアウト」とは企業が事業の一部を切り出しすることです。
代取の説明によれば、英語塾として、そこそこ順調に営業してきたが、少子化傾向もあり、将来の不安から多角化を決意した由。待機児童問題に着目し、保育園の経営に乗り出しました。補助金の申請も採択され、銀行からの融資もおり、滑り出しは順調でした。しかし、詳細は不明ですが、直ぐに経営難に陥り、その立て直しや金策に忙殺され、社長は英語塾経営まで手が回らなかったと言うのが真相だったようです。
だとすれば、広宣活動を元どおりに増やすことによって生徒数も以前の水準に回復する可能性が高く、黒字化も達成出来るに違いない…
「これは買いだ!」と買い希望者は思ったのですが、次の瞬間、代取の口からは衝撃的な発言が飛び出しました。
「当社は金繰りのメドが絶たたないので、1か月後に破産申立てを予定している。その前にせめて英語塾だけは切り離し、意欲のある経営者に譲りたかった」と。
…聞いていないことにしよう、
と、買い希望者も思わず、そう考えたのですが、本件は破産事件として裁判所の管轄下におかれることが見えています。万一、バレた場合はより厄介なことになる可能性もあります。
たとえ、破産に至らなくても、そもそも倒産必至先から安価購入すれば、民放上の規定で他の債権者から「詐害行為取消権」を行使されることがあります。
「詐害行為」とは債務者が債権者を害することを知りながら自己の財産を減少させる行為のことで、今回の事例で言えば、売主が債務者、売主にカネを貸した銀行他が債権者、買い希望者=購入者が受益者となります。
今回の場合は、破産事件となる見込みですので、破産管財人から「否認権」を行使されることが十分考えられます。「否認権」は、民法の「詐害行為取消権」と同様の趣旨の破産法上の制度です。
これについては後で詳述します。
いずれにせよ、本件の場合、売主と合意して購入したものでも、後日、その行為自体が否認され、元に戻される≒なかったことになる懸念があるのです。
つまり、買主は安心して塾の経営に邁進することなど出来なくなります。
しかも、譲渡価格の交渉の場で、代取は更に驚くべき発言をします。
「本当はいくらでも良いのよ。どうせ、売却代金は破産財団に組み入れられてしまうのだから。
ところで、ねえ、代金の一部を別口座に振り込むことって出来る?」
その言葉で、買い希望者は売主を「信頼できない人物」と判断し、本件交渉を打切ることとしました。
後日譚:
結局、売り手は破産申立てし、本事業が承継する者もなく、廃業となりました。
本事例の解説
本件失敗の要因・背景・注意事項:
破産等法的整理となると、当事者の合意を越える事態が起こり得ます。
本件は法的整理にまつわるものであり、スモールM&Aの買い希望者は特に安価な案件には十分注意する必要があります。
さて、事例の中で、いかにも曰くあり気な言葉が出て来ましたね。
まずそこから解説していきましょう。
(破産管財人の)否認権…破産手続開始前に破産者(又はこれと同視できる第三者)の行為で、破産債権者を害するものについては、破産管財人が否認をしてその行為の効力を失わせることが出来ます。
破産者と受益者が共謀して相場より安値で買い取った場合は否認されること必定です。
今回のケースで言えば、M&Aが成立しても、後日、なかったことになる可能性があるのです。
そもそも、近代法においては、私人同士はその自由意思により、どのような契約でも締結することが出来ますし、一旦契約が成立すれば、お互いを拘束すると言う「契約自由の原則」「私的自治の原則」が広く認められています。
しかし、一方では、公の秩序や強行法規に反しない限りと言う制約もあります。
破産法の趣旨の一つに、負債の返済が出来ない債務者(破産者)の財産を「債権者平等の原則」に基づき、適切・公平に清算(配当)することがあります。そして、裁判所によって選任された破産管財人がこれを行います。
破産管財人には、破産手続開始前になされた債権者全体に対する責任財産を絶対的に減少させる行為や債権者平等に反する行為の効力を否定して、失われた財産を破産財団に取り戻すため、「否認権」が与えられています。
つまり、「否認権」は「債権者平等」と言う破産法の趣旨を貫く為に「契約自由の原則」の前に立ちはだかる制度なのです。
例えば、お互いに合意した譲渡価格といえど、否認権行使の対象になることがあります。
買い方は当然安く買いたい訳ですから、否認権の対象になる可能性は相対的には高くなります。
一方、M&Aの譲渡価格の妥当性自体の証明はなかなか難しい問題です。そして、安い価格=他の債権者を害する意思があったと認定される懸念も少なく有りません。
詳細説明は別機会に譲りますが、M&Aのバリュエーション(企業価値、事業価値の評価)の手法も、大別すれば「インカム・アプローチ」「コスト・アプローチ」「マーケット・アプローチ」があり、それぞれに、異なる計算方法があり、結果的に評価額も異なってきます。
詐害行為ではない、すなわち「これは**法にもとづく正当な評価額であり、他の債権者を害する不当に安価なものではなく、共謀もしていない」と受益者(買主側)がたとえ主張したとしても、どの評価法・評価額が妥当なものかの判断は極めて微妙且つデリケートです。
破産管財人がどう判断するか、裁判所がどう判断するかは読めません。
こういう時は「君子危うきに近づかず」です。
破産等法的整理となると、当事者の合意を越える事態が起こり得ます。
本件は法的整理にまつわるものであり、スモールM&Aの買い希望者は特に安価な案件には十分注意する必要があります。
さて、事例の中で、いかにも曰くあり気な言葉が出て来ましたね。
まずそこから解説していきましょう。
(破産管財人の)否認権…破産手続開始前に破産者(又はこれと同視できる第三者)の行為で、破産債権者を害するものについては、破産管財人が否認をしてその行為の効力を失わせることが出来ます。
破産者と受益者が共謀して相場より安値で買い取った場合は否認されること必定です。
今回のケースで言えば、M&Aが成立しても、後日、なかったことになる可能性があるのです。
そもそも、近代法においては、私人同士はその自由意思により、どのような契約でも締結することが出来ますし、一旦契約が成立すれば、お互いを拘束すると言う「契約自由の原則」「私的自治の原則」が広く認められています。
しかし、一方では、公の秩序や強行法規に反しない限りと言う制約もあります。
破産法の趣旨の一つに、負債の返済が出来ない債務者(破産者)の財産を「債権者平等の原則」に基づき、適切・公平に清算(配当)することがあります。そして、裁判所によって選任された破産管財人がこれを行います。
破産管財人には、破産手続開始前になされた債権者全体に対する責任財産を絶対的に減少させる行為や債権者平等に反する行為の効力を否定して、失われた財産を破産財団に取り戻すため、「否認権」が与えられています。
つまり、「否認権」は「債権者平等」と言う破産法の趣旨を貫く為に「契約自由の原則」の前に立ちはだかる制度なのです。
例えば、お互いに合意した譲渡価格といえど、否認権行使の対象になることがあります。
買い方は当然安く買いたい訳ですから、否認権の対象になる可能性は相対的には高くなります。
一方、M&Aの譲渡価格の妥当性自体の証明はなかなか難しい問題です。そして、安い価格=他の債権者を害する意思があったと認定される懸念も少なく有りません。
詳細説明は別機会に譲りますが、M&Aのバリュエーション(企業価値、事業価値の評価)の手法も、大別すれば「インカム・アプローチ」「コスト・アプローチ」「マーケット・アプローチ」があり、それぞれに、異なる計算方法があり、結果的に評価額も異なってきます。
詐害行為ではない、すなわち「これは**法にもとづく正当な評価額であり、他の債権者を害する不当に安価なものではなく、共謀もしていない」と受益者(買主側)がたとえ主張したとしても、どの評価法・評価額が妥当なものかの判断は極めて微妙且つデリケートです。
破産管財人がどう判断するか、裁判所がどう判断するかは読めません。
こういう時は「君子危うきに近づかず」です。
もっと深く、詳しく学びたい方へ
本件に関する関係条文をお示しします。
Ⅰ.詐害行為取消権 民法
(詐害行為取消請求)
第424条
債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
前項の規定は、財産権を目的としない行為については、適用しない。
債権者は、その債権が第1項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、同項の規定による請求(以下「詐害行為取消請求」という。)をすることができる。
債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、詐害行為取消請求をすることができない 。
Ⅱ.破産管財人の否認権 破産法
(破産法の目的)
第1条 この法律は、支払不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算に関する手続を定めること等により、債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに、債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とする。
(定義)
第2条 この法律において「破産手続」とは、次章以下(第12章を除く。)に定めるところにより、債務者の財産又は相続財産若しくは信託財産を清算する手続をいう。
2 この法律において「破産事件」とは、破産手続に係る事件をいう。
11 この法律において「支払不能」とは、債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態(信託財産の破産にあっては、受託者が、信託財産による支払能力を欠くために、信託財産責任負担債務(信託法(平成18年法律第108号)第2条第9項に規定する信託財産責任負担債務をいう。以下同じ。)のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態)をいう。
12 この法律において「破産管財人」とは、破産手続において破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利を有する者をいう。
14 この法律において「破産財団」とは、破産者の財産又は相続財産若しくは信託財産であって、破産手続において破産管財人にその管理及び処分をする権利が専属するものをいう。
(破産手続開始の原因)
第15条 債務者が支払不能にあるときは、裁判所は、第30条第1項の規定に基づき、申立てにより、決定で、破産手続を開始する。
2 債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定する。
(破産債権者を害する行為の否認)
第160条 次に掲げる行為(担保の供与又は債務の消滅に関する行為を除く。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 破産者が破産債権者を害することを知ってした行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。
二 破産者が支払の停止又は破産手続開始の申立て(以下この節において「支払の停止等」という。)があった後にした破産債権者を害する行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、支払の停止等があったこと及び破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。
2 破産者がした債務の消滅に関する行為であって、債権者の受けた給付の価額が当該行為によって消滅した債務の額より過大であるものは、前項各号に掲げる要件のいずれかに該当するときは、破産手続開始後、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分に限り、破産財団のために否認することができる。
3 破産者が支払の停止等があった後又はその前六月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
Ⅰ.詐害行為取消権 民法
(詐害行為取消請求)
第424条
債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
前項の規定は、財産権を目的としない行為については、適用しない。
債権者は、その債権が第1項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、同項の規定による請求(以下「詐害行為取消請求」という。)をすることができる。
債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、詐害行為取消請求をすることができない 。
Ⅱ.破産管財人の否認権 破産法
(破産法の目的)
第1条 この法律は、支払不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算に関する手続を定めること等により、債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに、債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とする。
(定義)
第2条 この法律において「破産手続」とは、次章以下(第12章を除く。)に定めるところにより、債務者の財産又は相続財産若しくは信託財産を清算する手続をいう。
2 この法律において「破産事件」とは、破産手続に係る事件をいう。
11 この法律において「支払不能」とは、債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態(信託財産の破産にあっては、受託者が、信託財産による支払能力を欠くために、信託財産責任負担債務(信託法(平成18年法律第108号)第2条第9項に規定する信託財産責任負担債務をいう。以下同じ。)のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態)をいう。
12 この法律において「破産管財人」とは、破産手続において破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利を有する者をいう。
14 この法律において「破産財団」とは、破産者の財産又は相続財産若しくは信託財産であって、破産手続において破産管財人にその管理及び処分をする権利が専属するものをいう。
(破産手続開始の原因)
第15条 債務者が支払不能にあるときは、裁判所は、第30条第1項の規定に基づき、申立てにより、決定で、破産手続を開始する。
2 債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定する。
(破産債権者を害する行為の否認)
第160条 次に掲げる行為(担保の供与又は債務の消滅に関する行為を除く。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 破産者が破産債権者を害することを知ってした行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。
二 破産者が支払の停止又は破産手続開始の申立て(以下この節において「支払の停止等」という。)があった後にした破産債権者を害する行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、支払の停止等があったこと及び破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。
2 破産者がした債務の消滅に関する行為であって、債権者の受けた給付の価額が当該行為によって消滅した債務の額より過大であるものは、前項各号に掲げる要件のいずれかに該当するときは、破産手続開始後、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分に限り、破産財団のために否認することができる。
3 破産者が支払の停止等があった後又はその前六月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。