サブタイトルは、江戸時代の大名にして、剣豪、そして名エッセイストとしても著名な松浦静山(本名:松浦清)が、その著「常静子剣談」の中で述べた言葉です。
折角、幾多の困難・障壁・難題を乗り越えて漕ぎつけたM&Aが結果的に失敗、あるいは、M&Aの交渉自体が破談に至るのは、そこに明確な失敗事由~静山によれば、「道(≒法則)に背き、術(≒技術)を違え」ていること~が存在しているからとなります。
いくら成功事例を集めて分析しても、成功の要素を特定するのは難しく、且つ、中には単なるラッキーもあるでしょう。むしろ、失敗事例にて失敗の要因をしっかり押さえて≒留意して、当初から適切に対応・進めていく、あるいは固有の問題点を事前に除去していけば、当該案件が失敗する懸念は相対的に少なくなると言うことは言えます。
特に、スモールM&Aは、詰めるべき部分が相対的に少ないので、的を絞ってアプローチすることにより、失敗しないM&A≒成功するM&Aの確率は格段に高まる筈です。
今回は、M&Aの売り案件の相談があり、詰めている途中で当該先の販売先から横槍(?)が入り、頓挫したケースを見ていきましょう。
事例: 有力販売先がM&Aに反対

製造・加工業(造船下請) 企業譲渡
希望価格 2000万円
売上 1億円強 営業利益/EBIDA 若干プラス
純資産 1000万円強
借入 1000万弱 (現預金 2000万円)
譲渡事由 代取体調不良・後継者不在
背景~E社長の事情
E社長は70代後半、最近、余命宣告を受け、M&Aよる売却を決断。
娘2人は既に結婚して家庭を築き、それぞれ職をもっており、身内に後継者はいません。
業績は順風満帆とまではいかないものの、決まった発注先からの受注を受け、安定的に推移。
従業員は20名強、外国籍の方も多数。
主な販売先は3社、うち1社のシェアが過半を占めていました。
人を介して私のところへM&Aの相談が来ました。
M&Aの一般的な流れ・留意点等を説明すると、
E社長は、「分かった。売ってください」と言い切りました。
そして売却代金を治療費に充てたいと。
私達はM&Aによる売却に向けての諸準備を開始しました。
売り出しの価格、買い手は私が提携しているマッチングサイト経由探すこと、従業員の処遇(雇用維持が絶対条件)等を固めていきました。
ある日、親しくなったE社長に聞きました。「なぜ、この仕事を選ばれたのですか」
E社長「前の仕事に飽きた頃、偶然、Ω社の幹部と知り合って『新しい仕事に挑戦したいんです』なんて言ったらさ、じゃあ、ウチの下請けになって『人入れ稼業』やらないかって誘われたのさ、たまたまね。そんなもんだ、人生なんて」
ある程度、基本的な検討が終わった段階で、E社長にこう申し上げました。
「従業員始め関係者に告げるタイミングですが、動揺が起こることも勘案して、買収先をある程度絞りこんだ段階等、状況や周囲の反応を慎重に見極めてから告知する方がベターですね」と。
E社長「大丈夫ですよ、隠しても仕方ない。」と全く意に介しませんでした。
当方「隠すと言うより、動揺が従業員やお客様・関係者の間で広がり、M&Aの交渉自体にも悪影が出ないとは限りません。告知についてはタイミングを十分に図った上の方がよくはないですか」
E社長「大丈夫、大丈夫、心配ない」
数日後、突然、娘達より連絡がありました。
今回の話はなかったことに…と。
Ω社がこのM&Aに反対を表明したのです。
希望価格 2000万円
売上 1億円強 営業利益/EBIDA 若干プラス
純資産 1000万円強
借入 1000万弱 (現預金 2000万円)
譲渡事由 代取体調不良・後継者不在
背景~E社長の事情
E社長は70代後半、最近、余命宣告を受け、M&Aよる売却を決断。
娘2人は既に結婚して家庭を築き、それぞれ職をもっており、身内に後継者はいません。
業績は順風満帆とまではいかないものの、決まった発注先からの受注を受け、安定的に推移。
従業員は20名強、外国籍の方も多数。
主な販売先は3社、うち1社のシェアが過半を占めていました。
人を介して私のところへM&Aの相談が来ました。
M&Aの一般的な流れ・留意点等を説明すると、
E社長は、「分かった。売ってください」と言い切りました。
そして売却代金を治療費に充てたいと。
私達はM&Aによる売却に向けての諸準備を開始しました。
売り出しの価格、買い手は私が提携しているマッチングサイト経由探すこと、従業員の処遇(雇用維持が絶対条件)等を固めていきました。
ある日、親しくなったE社長に聞きました。「なぜ、この仕事を選ばれたのですか」
E社長「前の仕事に飽きた頃、偶然、Ω社の幹部と知り合って『新しい仕事に挑戦したいんです』なんて言ったらさ、じゃあ、ウチの下請けになって『人入れ稼業』やらないかって誘われたのさ、たまたまね。そんなもんだ、人生なんて」
ある程度、基本的な検討が終わった段階で、E社長にこう申し上げました。
「従業員始め関係者に告げるタイミングですが、動揺が起こることも勘案して、買収先をある程度絞りこんだ段階等、状況や周囲の反応を慎重に見極めてから告知する方がベターですね」と。
E社長「大丈夫ですよ、隠しても仕方ない。」と全く意に介しませんでした。
当方「隠すと言うより、動揺が従業員やお客様・関係者の間で広がり、M&Aの交渉自体にも悪影が出ないとは限りません。告知についてはタイミングを十分に図った上の方がよくはないですか」
E社長「大丈夫、大丈夫、心配ない」
数日後、突然、娘達より連絡がありました。
今回の話はなかったことに…と。
Ω社がこのM&Aに反対を表明したのです。
有力販売先の思惑

Ω社「M&Aすると聴いたが、ウチは反対だ。もしM&Aを強行するようなら、今後、ウチからの発注はありません」
その言葉で当社は震え上がり、本件検討・準備の即時停止を決めたのです。
当方から「M&Aを停止してもE社長の癌は治りませんよ、当社の置かれた状況は変わりませんよ。
それより、収束策を練りましょうよ、例えば、Ωさんに買収してもらうとか、あるいは買収でなく…」
と呼びかけたのですが、反応はナシの礫でした。
間にヒトが入っていることもあり、結局、本件はお互いに不本意なまま中断せざるを得ないことになりました。
厳密且つ詳細に事態を分析できれば、あるいは、本件は「優越的地位の濫用による下請けイジメ」の疑いに該当するところが出てくるかも知れません。
しかし、現実問題として、法的追及はそう簡単にはいかないものですし、そもそも相手がどこまで真実を語っているかも分かりません。
しかし、本件は「M&Aあるある」の一つであることは間違いありませんので、本件について、もう少し掘り下げてみましょう。
敢えて言えば、M&A成約の前に破談になったことは関係者の被害拡大が食い止められたとも言えます。
主要顧客がM&A後の引き続き取引を継続してくれのか否かは、M&A成否の重要なポイントではあります。
さて、我々は、どこで間違えたのでしょうか?
何が悪かったのでしょうか?
真意はともかく、M&Aに際してキーマンとなる従業員や販売先の離反は十分に想定される事態です。
マッチングサイトの中には「オープンネーム」(当初から企業名を開示して募集すること)を売り物にしている業者もありますが、そこに参加している企業は、小規模業者、BtoCの形態が多いようです。
まだまだM&Aはネームクリヤー(ある段階で企業名を開示すること)のタイミングに慎重なスタンスである企業が圧倒的多数です。
とかく、M&A案件は噂が噂を呼び、憶測も交じり、当事者の思惑を超えた事態が現出することも少なくありません。
今回のケースもその一つでしょう。
M&Aによって引き起こされる様々な問題について、私たちは敏感になるべきで想像力をフルに稼働させる必要があります。顧客・仕入れ先・従業員、その他ステークホルダーにとって、このM&Aがどんな影響を与えるか、彼らの胸の内はいかなるものであるのかについて、思いを巡らせることが大事です。
さて、ここではその販売先側に立って考えてみましょう。
たまたま発覚しただけですが、本件はそもそも当該販売先が当社社長に設立を持ち掛けた経緯がありましたので、販売先は自分の言うことを聞く従順な下請けを確保しておきたかった可能性が高い案件です。
折角、仕事を用意してやったのに、手塩にかけて育ててやったのに、後足で砂をかける積りか!ふざけるな!
てな感じでしょうか。
M&Aとなれば、次の経営者がどんな奴かもわかりません。Ω社にとって不本意で不愉快なことも理解出来ます。
今回の様な経緯があろうとなかろうと、出来ることであれば、自分の意のままに操れる下請けが好ましいに決まってます。
法的な問題はともかく、現段階でΩ社にソッポを向かれては当社は立ちいかなくなるのは明らかです。
げに、有力販売先の考え方、彼我の力関係等は事前に探っておき、開示するタイミングも慎重に見極める必要があります。
万一、反対された時の対応、代案、Ω社説得役の選定等詰めておくべきことは沢山あります。
では、不用意に開示し拒絶された今、他に対応方法はないのでしょうか。
註:本件は事実に基づいて執筆しておりますが、守秘義務の観点から、基本的テーマに関係ない部分、ディテールについては適宜修正を加えております。
その言葉で当社は震え上がり、本件検討・準備の即時停止を決めたのです。
当方から「M&Aを停止してもE社長の癌は治りませんよ、当社の置かれた状況は変わりませんよ。
それより、収束策を練りましょうよ、例えば、Ωさんに買収してもらうとか、あるいは買収でなく…」
と呼びかけたのですが、反応はナシの礫でした。
間にヒトが入っていることもあり、結局、本件はお互いに不本意なまま中断せざるを得ないことになりました。
厳密且つ詳細に事態を分析できれば、あるいは、本件は「優越的地位の濫用による下請けイジメ」の疑いに該当するところが出てくるかも知れません。
しかし、現実問題として、法的追及はそう簡単にはいかないものですし、そもそも相手がどこまで真実を語っているかも分かりません。
しかし、本件は「M&Aあるある」の一つであることは間違いありませんので、本件について、もう少し掘り下げてみましょう。
敢えて言えば、M&A成約の前に破談になったことは関係者の被害拡大が食い止められたとも言えます。
主要顧客がM&A後の引き続き取引を継続してくれのか否かは、M&A成否の重要なポイントではあります。
さて、我々は、どこで間違えたのでしょうか?
何が悪かったのでしょうか?
真意はともかく、M&Aに際してキーマンとなる従業員や販売先の離反は十分に想定される事態です。
マッチングサイトの中には「オープンネーム」(当初から企業名を開示して募集すること)を売り物にしている業者もありますが、そこに参加している企業は、小規模業者、BtoCの形態が多いようです。
まだまだM&Aはネームクリヤー(ある段階で企業名を開示すること)のタイミングに慎重なスタンスである企業が圧倒的多数です。
とかく、M&A案件は噂が噂を呼び、憶測も交じり、当事者の思惑を超えた事態が現出することも少なくありません。
今回のケースもその一つでしょう。
M&Aによって引き起こされる様々な問題について、私たちは敏感になるべきで想像力をフルに稼働させる必要があります。顧客・仕入れ先・従業員、その他ステークホルダーにとって、このM&Aがどんな影響を与えるか、彼らの胸の内はいかなるものであるのかについて、思いを巡らせることが大事です。
さて、ここではその販売先側に立って考えてみましょう。
たまたま発覚しただけですが、本件はそもそも当該販売先が当社社長に設立を持ち掛けた経緯がありましたので、販売先は自分の言うことを聞く従順な下請けを確保しておきたかった可能性が高い案件です。
折角、仕事を用意してやったのに、手塩にかけて育ててやったのに、後足で砂をかける積りか!ふざけるな!
てな感じでしょうか。
M&Aとなれば、次の経営者がどんな奴かもわかりません。Ω社にとって不本意で不愉快なことも理解出来ます。
今回の様な経緯があろうとなかろうと、出来ることであれば、自分の意のままに操れる下請けが好ましいに決まってます。
法的な問題はともかく、現段階でΩ社にソッポを向かれては当社は立ちいかなくなるのは明らかです。
げに、有力販売先の考え方、彼我の力関係等は事前に探っておき、開示するタイミングも慎重に見極める必要があります。
万一、反対された時の対応、代案、Ω社説得役の選定等詰めておくべきことは沢山あります。
では、不用意に開示し拒絶された今、他に対応方法はないのでしょうか。
註:本件は事実に基づいて執筆しておりますが、守秘義務の観点から、基本的テーマに関係ない部分、ディテールについては適宜修正を加えております。
どういう対応が可能だったのでしょう

考えられる対応はいくつかあります。
1つは、Ω社に当社を買ってもらうことです。勿論、適正価格で。
これが出来れば、多分、現時点での最善の策です。
しかし、現段階でΩ社は一方的に反対しているだけですよね。
残念ながら、E社長の会社には他社では出来ない特殊な技術がある訳でもなさそうなので、
もし、私がΩ社なら、敢えて今は手出しをせず、E社長が事実上活動出来なくなるのを待ちますね。
会社がどうにもならなくなってから、救いの手を差し伸べる形で、(実際は、企業価値の下落するのを待って)買い叩く訳です。
それも自分では買収せず、傘下の下請けに買収させるでしょうね。
今、一つは、Ω社に気づかれないよう、秘密裏に提携乃至資本参加を第三者と進め、機会を伺うやり方です。
例えば、単純な株式譲渡ではなく、実質的な譲渡価格を当社に貸付て担保として株式を手元に留保するやり方も一つです。
そうすれば、外部からは容易には分かりません。
勿論、このように手の込んだ方法でなく、単純な業務提携からスタートする手もあります。
いずれにせよ、なんらかの手法で当社に入り込み、Ω社との力関係、距離感をつかみます。
そして、Ω社との関係修復を図り、E社長不在でもΩ社と円滑に付き合える体制の構築を探っていきます。
例えば、新オーナーの意を体した人間を新現場監督みたいな職位でΩ社と接し親密化を図る等です。
しかし、それらの施策が難しそうならば、割り切って、Ω社に代わる取引先を探すことです。
幸いなことに、現地にはΩ社に代わる存在の元受けも存在しているようです。
各社の力関係や親密度等も十分調べ上げねばなりませんが。
この辺りを十分理解した上で買ってくれる先を探す必要があり、それはフツーのM&Aの買い手探しよりは困難なことは事実です。
が、現在のM&A市場では広く投資対象や売り案件が物色されているので、譲渡価格他の条件次第ではこのような特殊な買い手を探すことも、ある程度時間をかけ、価格もそれなりのものにすれば、あながち不可能でもないかも知れません。
但し、売り手側に当該投資に見合う、それなりの魅力があることが必要不可欠です。
いずれも、相手があることですから、一筋縄ではいきませんね。
これらをヒントに、出来れば、販売先を敵に回すことなく、慎重に進めてください。
1つは、Ω社に当社を買ってもらうことです。勿論、適正価格で。
これが出来れば、多分、現時点での最善の策です。
しかし、現段階でΩ社は一方的に反対しているだけですよね。
残念ながら、E社長の会社には他社では出来ない特殊な技術がある訳でもなさそうなので、
もし、私がΩ社なら、敢えて今は手出しをせず、E社長が事実上活動出来なくなるのを待ちますね。
会社がどうにもならなくなってから、救いの手を差し伸べる形で、(実際は、企業価値の下落するのを待って)買い叩く訳です。
それも自分では買収せず、傘下の下請けに買収させるでしょうね。
今、一つは、Ω社に気づかれないよう、秘密裏に提携乃至資本参加を第三者と進め、機会を伺うやり方です。
例えば、単純な株式譲渡ではなく、実質的な譲渡価格を当社に貸付て担保として株式を手元に留保するやり方も一つです。
そうすれば、外部からは容易には分かりません。
勿論、このように手の込んだ方法でなく、単純な業務提携からスタートする手もあります。
いずれにせよ、なんらかの手法で当社に入り込み、Ω社との力関係、距離感をつかみます。
そして、Ω社との関係修復を図り、E社長不在でもΩ社と円滑に付き合える体制の構築を探っていきます。
例えば、新オーナーの意を体した人間を新現場監督みたいな職位でΩ社と接し親密化を図る等です。
しかし、それらの施策が難しそうならば、割り切って、Ω社に代わる取引先を探すことです。
幸いなことに、現地にはΩ社に代わる存在の元受けも存在しているようです。
各社の力関係や親密度等も十分調べ上げねばなりませんが。
この辺りを十分理解した上で買ってくれる先を探す必要があり、それはフツーのM&Aの買い手探しよりは困難なことは事実です。
が、現在のM&A市場では広く投資対象や売り案件が物色されているので、譲渡価格他の条件次第ではこのような特殊な買い手を探すことも、ある程度時間をかけ、価格もそれなりのものにすれば、あながち不可能でもないかも知れません。
但し、売り手側に当該投資に見合う、それなりの魅力があることが必要不可欠です。
いずれも、相手があることですから、一筋縄ではいきませんね。
これらをヒントに、出来れば、販売先を敵に回すことなく、慎重に進めてください。